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【レビュー】ANTHRO VISION (アンソロビジョン) 元人類学専攻が読んでみた感想


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経済、金融、医療、生産、消費...あらゆる分野で、今やビッグデータの収集と分析は当然とみなされています。

 

でも、ビッグデータだけでは分からないことも沢山ありますよね。

 

そこで今回は、

 

  • ビッグデータが集めた「WHAT」に対して「WHY」と問う姿勢
  • WHYに対する回答としてANTHRO VISION(アンソロ・ビジョン)でビジネスと世界を視ることの重要性

 

を説く本を紹介します。

 

 

  • これまにないスピードで、移り変わる世界を捉える方法
  • 自分とは全く異なる業界の人たちの考え方
  • 地理的にも文化的にも遠い国の人たちの慣習
  • 世界的な企業が、人類学者に調査を依頼することで得られた成果

 

を知りたい方は、ぜひ「ANTHRO VISION」を手に取ってみてください。

 

私、実は学生時代に人類学を専攻していました。

 

ANTHRO VISIONは、人類学の地道だけど見過ごせない優れた箇所を、凝縮して紹介ていると思います!

 

 

「こういうものの見方って、言われてみると確かにすごく大事だよな」という気づきを沢山得られますよ。

 

 

ANTHRO VISION 人類学的思考で視るビジネスと世界

(ジリアン・テット/日本経済新聞出版)

 

 

 

 

概要

ANTHRO VISIONは、ケンブリッジ大学社会人類学の博士号を取得した後、特に金融ジャーナリストとして受賞した経歴もある、ジリアン・テットによる本です。

 

ジリアン・テット自身がタジキスタンの農村から金融業界で得られた経験、また同業の人類学者たちが企業での調査で明らかにしてきたことを基に、人類学的思考を持つことの有用性を説いています。

 

 

3部構成の本です。

 

第一部 「未知なるもの」を身近なものへ

第二部 「身近なもの」を未知なるものへ 

第三部 社会的沈黙に耳を澄ます

結び アマゾンからAzazonへー誰もが人類学者の視点を身につけたら

 

 

私が読んだ中で、特に印象的だった箇所をご紹介します。

 

 

カルチャーショックーそもそも人類学とは何か (第一章)

別の言い方をすれば、オビ・サフェド村では二つのシステムが対立ではなく共存するようなかたちで「共産主義」が再定義されていた。p.50

 

人類学を勉強したことがある人にとって、最もなじみ深いのは第一章ではないでしょうか。

 

第一章では、ジリアン・テットが博士論文のために訪問した、タジキスタンのオビ・サフェド村でのエピソードが語られます。第二章以降は、主にグローバル企業で活躍する人類学者たちの調査について描かれます。

 

 

ケンブリッジ大学の学生だったジリアン・テットは、「イスラム教と共産主義」という相容れないだろう2つの信念体系が、タジキスタンの農村で、いかに対立しているかを調査しようとしていました。

 

しかし、実際に農村の住民たちと生活を共にする中で、イスラム教と共産主義が対立するのではなく、共存している様子に気がつくのです。

 

ケンブリッジ大学で集められる文献だけでは分からなかった実態が、オビ・サフェド村で、住民に混ざって生活することから見えてきたということです。

 

 

感染症ーなぜ医学ではパンデミックを止められないのか (第三章)

「エボラで死ぬことより、エボラによる死者として埋葬されるほうがはるかに悲惨だった」P.102

 

2014年西アフリカを中心に感染拡大したエボラに対して、人類学者がどのように働きかけ、医療に貢献したかが分かるエピソードです。

 

欧米諸国が医学的リスクを説明したり、ラジオやポスターでエボラの危険性を拡散したり、感染者とその親族の面会を禁止したりしても、なかなかエボラの感染威力を弱めることができませんでした。

 

西アフリカの村人たちが、エボラの死者に直接触れたり、隔離施設から逃げ出したりしていたことが理由として挙げられます。

 

 

これだけ聞くと「欧米諸国が治療と予防の手段を西アフリカに提供しているというのに、どうして野蛮な行動をするんだ」と思われるかもしれません。

 

しかし、一見野蛮に感じられる村人たちの行動にも、彼らなりの意味があります。

 

死者を適切な方法で埋葬しないと、その死者の身近な人たちが不幸になると信じられていたのです。

 

 

そこで人類学者たちは、エボラの医療従事者たちに、村人たちへの説明の仕方を工夫するよう提言しました。

 

欧米諸国が自分たちの方法を無理やり通していたら、さらに村人たちの反感を買っていたでしょう。他者の立場に寄り添うで成功につながった、具体的な一例です。

 

 

モラルマネーーサステナビリティ運動が盛り上がる本当の理由 (第十章)

つまり「わが身を守る」手段としてESGを使う企業や金融機関のリーダーが増えているのだ。P.290

 

ESGは、昨今、頻繁に耳にしますよね。環境(Environmental)、社会(Social),

ガバナンス(Governance)の頭文字をとった言葉です。

 

 

企業は本来、利益を出せなければ存続できないので、利益を追求するのが自然です。

 

しかし、どんな手段で儲けてもよいというわけではなく、企業の活動が社会や環境に与える影響も考慮する必要があります。

 

大企業はもちろんのこと、中小企業も含め、社会全体がこの流れに沿うことを期待されていますよね。

 

 

ジリアン・テットは、盛り上がりを見せるESGムーブメントの核心に「リスク管理」という問題を見つけます。ESGを意識できない企業では、消費者や投資家から批判され、損失を被る可能性があります。

 

これには納得する企業勤めの方も、正直多いのではないでしょうか。

 

 

感想

人類学専攻の人なら、共感する箇所だらけだったのではないでしょうか。なんというか、人類学専攻の人が世間一般に伝えたいことを、まとめて言ってくれた!という感じがあります。

 

自分の思考は絶対的なものではなく、相対的なものだと自覚することは、人類学者やジャーナリストだけでなく、経営者にも労働者にも、株主にも消費者にも役立つ視点ですよね。

 

 

ジリアン・テットが冒頭で述べている通り、「人類学」にはどこかエキゾチックで、風変わりな印象があるかもしれません。

 

私自身も「人類学って何を勉強しているの?」と聞かれると、「民族の慣習とか…」と答えることが多かった気がします。

 

 

でも、本当に伝えたかったのは学問の中身というよりも、「人類学的見方」や「人類学的思考」の方だったんだと気づかされました。

 

 

その他にも、特に共感した箇所は「語られないこと」に目を向ける姿勢です。画一的なアンケート調査だと、表面的な数値を集めることができても、「なぜ」回答者がそれを選択したのかまでは分からないですよね。

 

「なぜ○○を選んだのか」「なぜ××は選ばなかったのか」

 

語られない「なぜ」にこそ大きな発見が隠されていることは、ジリアン・テット他、人類学者たちの調査から明らかです。

 

人類学的思考を身につけ、新しい気づきが得ることは、ビジネスも世界もより鮮明に理解する助けになります!

 

 

まとめ

  • 他者の考え方や慣習を理解するために、重視するべきポイント
  • 自分たちの文化、もしくは自分自身を客観的に見るためのヒント
  • 当事者から語られない、けれど意味のある死角

 

ANTHRO VISIONを読んで、人類学的思考を身につけることで、上に挙げたようなことが分かってきます。

 

有名企業の具体例が沢山出てくるので読みやすく、ぜひお勧めしたい1冊です!

 

 

 

「ANTHRO VISION」はKindle版でも読むことができます。

 

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