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【感想】『サトコとナダ』から考える異文化理解


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現在、世界の約4人に1人がイスラム教徒(男性: ムスリム/女性: ムスリマ)と言われており、その割合は今後も増加していく見込みです。

 

日本にもインドネシアやマレーシアから、ムスリムの方たちが観光に来る姿を、コロナが流行る前はよく見かけましたよね。海外旅行が自由にできるようになったら、また沢山のムスリム観光客が来てくれることでしょう。

 

 

その一方で「イスラム教=テロが多い」というイメージを持っている人が多いこともまた、事実なのではないでしょうか。

 

今回は、ムスリムとの異文化交流をテーマに書かれたことで話題のマンガ「サトコとナダ」を紹介します。

 

 

という方にお勧めです。

 

 

マンガなので気軽に読めますし、さらっと読めるのに気づきや学びは沢山ある素敵な作品です!

 

 

『サトコとナダ』ってどんな話?

サトコとナダ(1) (ユペチカ/講談社)

 

日本人女子大生のサトコが、サウジアラビア出身でムスリマ(イスラーム女性)のナダとアメリカでルームシェアをする、優しい絵柄のマンガです。

 

イスラム」はその信仰だけでなく、生活習慣や文化にも大いに反映されています。しかし、「イスラム教」という宗教のイメージが強く、マンガにするには若干センシティブな内容にも感じますよね。

 

 

実際「サトコとナダ」の刊行に至っては、きちんと専門家の監修がありました。

 

作者であるユペチカさんの留学経験に基づく作品ではありますが、ノンフィクションというわけではないそうです。

 

 

(参照)

【インタビュー】ユペチカ『サトコとナダ』おもしろさの秘密には、ある「神様」の存在があった!  |  このマンガがすごい!WEB

 

 

サトコは、ヒジャブ(イスラム女性がよく身に付けている、髪を覆う布)を身に着けたナダの姿に驚き、これから始まる共同生活に不安を覚えます。

 

しかし、ナダと一緒に住み、ナダの友達で様々な国出身のムスリマたちと出会うことで、サトコは彼女たちと仲良くなります。少しずつイスラムについて知っていく中で、サトコは自分がイスラムについて偏見を持っていたことにも気が付きます。

 

 

その例が「イスラム女性はヒジャブを強制されて着ている」というものです。これは、作者のユペチカさんが実際に抱いていたものだそうで、正直、私も身に覚えがあります。

 

 

もちろん「イスラム」といっても、その信仰への思いの強さや、習慣の実践には非常に個人差があります。とは言え、ナダにとってヒジャブは、決して強制されたものではなく、「自ら望んで着ている」ものです。

 

こういった内容を知らずに過ごしていると、「イスラム教は女性にヒジャブを強要されている」という誤解を持つことになってしまいます。

 

 

「サトコとナダ」を読むことで、今まで知らなかった、よく理解しようと努力してこなかったイスラムの概観をつかむことができます。少なくとも「イスラム=恐い」という画一的な誤解は大分薄れるはずです。

 

 

イスラムをもう少し知りたくなったら

「サトコとナダ」でイスラムに興味が出てきたら、もう一歩進んでみましょう。

 

『サトコとナダ』から考えるイスラム入門 ムスリムの生活・文化・歴史 (椿原 敦子・黒田 賢治/講談社)

 

 

この本は、イスラムを専門にしている研究者によって書かれています。「サトコとナダ」で出てきたイスラムのトピックを中心に、「世界史で聞いたことある」とか「最近のニュースでも話題になっていた」といったムスリムの生活・文化・歴史を、易しい言葉で解説してくれます。

 

 

その中でも、特に私が府に落ちた箇所を抜粋します。

 

 

 もうひとつの分かりにくさの理由は、イスラム教徒とは誰を指すのか、ということの難しさです。同じ信仰を持つひとたちなのだから、共通する部分を知りたい、と思われるかもしれません。でも、約17億3千万の人をひとくくりに「こんな人たちです」ということが可能でしょうか?

 このざっくりとまとめられたイスラム教徒のイメージ、ステレオタイプこそが理解を妨げているように感じます。私たちだって、アジア人とひとまとめされると「間違ってないけど全然違うよ!」って言いたくなりますよね。

 

 

これは確かに、と思いました。「アジア人」という単語で、一応アジア圏に住む人たちをひとくくりにできますが、「アジア人はこういう人たちだよ」という特徴を明確に述べるのはかなり難しいでしょう。

 

 

本書は、「イスラムの人たちをひとくくりにして説明することは難しい」という立場をとりながら、「これから出会うイスラムの人とよりよい関係を築いていくためのヒント」を沢山提供してくれます。

 

 

個人的に印象に残ったトピックを紹介します。

 

 

イスラム過激派が登場してしまった要因

これは、平和に生きたい全ての方にとって、関心がある内容ではないでしょうか。

 

過激派の暴力的な行動について私たちは理解に苦しみますが、彼らは彼らのなりの根拠を持って実行しているそうです。

 

真のイスラム教徒として「努力」することが、イスラムを信仰する人には求められています。その「努力」を「異教徒と戦うこと」と捉えてしまった人たちが、テロなどの暴力的な手段に訴えてしまうそうです。

 

 

イスラモフォビアの理由

「イスラモフォビア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

○○フォビアは「〇〇嫌い」「○○恐怖症」と言った意味です。イスラムの他に、同性愛者に対する嫌悪感を表す言葉として「ホモフォビア」という言葉もあります。

 

 

イスラモフォビアは主にヨーロッパやアメリカで聞かれる言葉ですが、ヨーロッパのイスラモフォビアとアメリカのイスラモフォビアでは、その理由が異なります。

 

そんなに嫌わなくても…と呑気に思ってしまいそうですが、歴史的事件や時代の潮流を知ると、そう簡単な問題ではないことが分かります。

 

 

ハラル認証のビジネス化

イスラム教に詳しくなくても、「イスラム教の人は豚肉を食べてはいけない」ことを知っている人は多いのではないでしょうか。

 

イスラムの教義に則した処理の方法、食材を使っている食べ物は「ハラル・フード」と呼ばれています。イスラム圏からの観光客が増えてきた昨今、ハラル・フードとして飲食物を提供できる「ハラル認証」が注目を集めてきました。

 

しかし、どこまで厳しいチェックが必要かはムスリム個々人によって違ってきます。細かい確認事項のために、ハラル・フードの金額が上がってしまい困るという意見もあるそうです。

 

 

ハラル・フードは、ムスリム観光客に配慮した、よい取り組みだと思っていました。でも、あまりに徹底して行おうとしたり、お金儲けの手段にしようとしたりすると、どこかで軋轢が生まれてしまうようです。

 

 

イスラーム銀行に興味を持った本について、紹介しています。

knonononai.hatenablog.com

 

 

※もう少し踏み込んだ、イスラームと経済のお話。

knonononai.hatenablog.com

 

 

感想

率直に言うと、「異文化理解ってやっぱり難しい…」と思ってしまいました。

 

「自分、または自分が属する社会では、ここまでは許容できるけど、これ以上は容認できない」といった線引きが、どこの社会にも存在しているのではないでしょうか。

 

自分の文化と相手の文化が異なる時、始めから拒否するのではなく、どこか妥協できる点がないか模索することは、異文化理解の重要な点だと思います。

 

 

でも、どこで妥協点が見つかるのか、こちらが歩み寄ってもあちらが一歩も引かないのではないか、という懸念もあるでしょう。

 

「多様性」とか「異文化理解」は、拒否するよりもずっとずっと時間と労力がかかることなのです。それを避けては通れないほど人の行き来が活発となっている昨今だからこそ、自分が持っている偏見を自覚し、少しでも正していきたいと思いました。

 

 

まとめ

「サトコとナダ」と、「『サトコとナダ』から考えるイスラム入門 ムスリムの生活・文化・歴史」をご紹介しました。2つを読めば、イスラムについての概観は知ることができるでしょう。

 

少なくとも、何も知らずに抱いていた「イスラム=テロリスト=恐い」という偏見は、大分修正することができるのではないでしょうか。

 

 

※愛用しているオススメのしおり

knonononai.hatenablog.com

 

 

※「多様性」について考えさせられた本2冊をご紹介。

knonononai.hatenablog.com

 

 

※自分が理解したつもりになっていた「多様性」について、まだまだ思慮が足りなかったことを思い知らされた本。

knonononai.hatenablog.com