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【読書】ハーフや帰国子女を羨ましいと思いますか? 国際移動を繰り返す人たちについての本


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「ハーフ」という言葉の使用が疑問視され始めていますが、今でも耳にすることはありますよね。ここでは、違った国籍の両親を持つ子供を指します。一方で「帰国子女」は親の仕事の都合などで海外で生活した後、日本に帰国した子供です。

 

私は高校卒業まで同じ県でずっと過ごし、日本の大学に進学し、日本の企業に就職しました。

 

海外に興味があって外国語を習得したいと思っている身からすると、いわゆる「ハーフ」や帰国子女は何となく憧れでした。幼いころから海外経験があり、2,3か国語話せるなんて羨ましいな、と思うこともありました。

 

では、

 

「メキシコ人の母と韓国人の父を持つメキシコ国籍で、幼いころは日本に住んでいたけど親の仕事でマレーシアに移住、その後韓国の日本人学校に通い、アメリカの大学に進学。英語と日本語とスペイン語を話せる」

 

と自己紹介されたらどう感じますか。

 

私は「え、よく分からないけどすごいね…」という何とも言えない感想を持ちました。

 

まさに例に挙げたような、複雑な移動の遍歴を持つ「ストレンジャー」について研究された本を紹介します。

 

「国際交流が好き」「海外に興味がある」という人にこそ、読んでみてほしい本です。

 

 

ストレンジャーの人類学 移動の中に生きる人々のライフストーリー (リーペレス ファビオ/明石書店)

 

 
 
本書は学術書ですが、そのタイトルと表紙のデザインがお堅くなく、むしろかっこいいいです。手に取ってみたくなります。
 
先に挙げた例は、本書の筆者のことなのです。筆者を含め合計5人、国際移動を繰り返してきた「ストレンジャー」たちの語りを集め、彼らが移動する先の文化にどう折り合いをつけているかを明らかにしています。
 
 
学術書というと難しいように聞こえますが、理論的背景や結論といった部分は抜きにして、ストレンジャーたちの語りを読むだけでも得られるものがあります。5人のライフストーリーをドラマで見ているような感覚です。彼/彼女たちが移動先のマジョリティーに溶け込めずに苦労したり、不当に傷つけられたりするエピソード多々あり、胸が痛むところもあります。
 
 
でも、そういうことが実際に彼/彼女たちに起こっていたんですよね。
 
 
移動先のマジョリティーに溶け込めず、ハーフや帰国子女というカテゴリーにも分類されきらないストレンジャーたちの語りは、今まで見過ごされてきたことが多かったのではないでしょうか。
 
 
誰かが取り上げないと、もしくはストレンジャー本人が伝えないと、その声が広まることはありませんよね。本書は「どこの社会に移動してもストレンジャー」という人たちの姿を浮かびあがらせています。

 

 

感想

 

国際移動への憧れと現実

オートエスノグラフィという研究手法を用いているため、筆者の過去についても赤裸々に語られています。

 

高校卒業までほとんど引っ越すこともなく過ごしてきた私からすると、「ストレンジャー」は「そんなすごい人たちがいるんだ…」と思ってしまう遍歴を持っています。

 

先に海外経験や外国語を習得していることが羨ましいと書きましたが、本書を読むと、ストレンジャーたちの葛藤を何も知らずにいたことに気が付きます。

 

 

「言語とか慣れるまでは大変だろうけど、慣れてしまえば楽しいのではないか」と呑気なことを考えていました。反省です。

 

実際は、移動先の国と自分が持っている文化の違いに戸惑い、どう対応すべきか悩む姿が見て取れます。

 

 

ストレンジャーたちへの風当たり

文化の他にも就労ビザ、滞在許可、パスポートの記載など、国による規則においてもストレンジャーたちは不利益を被っていることが分かりました。「世の中って理不尽だ」という救いようのない考えが浮かんでしまいました。

 

ある人から暴力を受けたり見下されたりという経験があっては、その国の人全体を恨みたくなる気持ちも、悲しいけれど理解できます。

 

「その国の人たちがみんな、ひどいわけじゃないって分かってる」とはいえ、です。痛い経験や嫌な思いがあれば、なるべく同じ目に遭わずに済むようにしたいと思ってしまいますよね。

 

 

相手のことを理解しようとするとき、頼りがちなもの

○○出身の△△人、○○と△△のハーフ、○○系△△人と言われれば、まだ理解できます。

 

でも本書のストレンジャーのように、いくつもそういった要素が重なると、理解の範疇を超えるというところに納得してしまいました。

 

 

「多様性は尊重すべきもの」と頭では分かっているんです。でも、結局誰かを理解しようとする時に、その人の国籍に頼っているところがかなりあることを思い知らされました。

 

 

合わせて読みたい

 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー (ブレイディ みかこ/新潮文庫)

 

 

アイルランド人(ホワイト)の夫と日本人(イエロー)の著者の息子が、イギリスの中学校に進学する過程で多様なルーツの同級生と出会い、時に衝突しながら成長していく過程を描いています。

 

※こちらの記事で詳しく取り上げました。

knonononai.hatenablog.com

 

まとめ

外国語を習得したり、旅行でいろいろな国に足を運んでみたり。自分はいろんな国の人に会ってきたし、コミュニケーションだって何とかとれていたはず、と思っていたのですが…。

 

 

「○○人と△△人のハーフとか、○○系△△人とか、そういうカテゴリーに当てはめきれない、もっと複雑な移動をしてきた人たち」について、正直今までよく考えたこともなかったんです。

 

そのことに気付けただけでも1つの収穫と言ってよいでしょうか。

 

グローバル化」や「多様性」に関心がある方に、読んでみてほしい1冊です。

 

 

※愛用しているオススメのしおり

knonononai.hatenablog.com